「原発事故と子どもたちと教職員の人権」

福島県双葉郡広野町立広野中学校 柴口正武さん
 今回、私たち双葉地方の住民は、原発事故の恐ろしさを身をもって知った。避難場所では、携帯電話、電子メール、災害伝言版など、あらゆる方法を用いた安否確認。個人情報保護、名簿携帯禁止の中での安否確認は困難を強いられた。3月20日を過ぎた頃、子どもたちの安否確認は、転校先確認へと変わっていく。転校先を整理しながら、子どもたちがバラバラになつていく様に涙がこぼれた。広野中学校の230名の子どもたちは全国各地の70校に、富岡町の小学校では、約500名の子どもたちが240もの学校に転校。その後、教職員には「兼務発令」が出される。教職員は別々の学校に配置され、その学校で転校した子どもたちの支援を行うことを指示される。職場は「兼務発令」によりバラバラになった。「兼務発令」は、「在籍している児童生徒が転校した先の学校に配置する」という大原則のもとに行われた。当時、双葉支部長として組合員の生活を守るために、懸命に県教委との交渉を進めようとしたが、交渉には県教委はほとんど応じなかった。子どもたちの「心のケア」は、私たちの一番の使命だった。しかし、組織だてて支援ができていないのがほとんどだった。6月になってから学校に行けなくなった子ども、転校先でいじめにあった子ども、避難生活の中で生活のリズムを崩していく子ども。家庭からの連絡を受け、避難先や転校先に出向き、母親との面談を行ったり、本人と直接話をするなどしたりして個別の対応に心掛けてきた。子どもや保護者に何とか寄り添ってあげようという思いで、実際には、各学校、各自の判断や思惑で行っていた。新年度になり、各校の児童生徒数が明らかになる。双葉郡内の小・中学校には、785名。大震災当時の児童生徒数は6397名。12%の子どもたちしか戻っていないのが現実である。授業再開が華々しく報道される陰に、9割近くの子どもたちが隠されてしまっている。学校再開が、地域復興のシンボルとされてしまい、「復興」が着実に進んでいるという「宣伝」に利用されていると感じる。原発事故は、放射能の問題、避難生活の問題など、子どもたちの人権を脅かしている。安易な原発再稼働を、私たちは許すことはできない。脱原発を実現することが、今、私たち双葉の住民に課せられた人権を守る使命だと感じている。運動の弱さ、認識の甘さを十分に反省し、今回の一番の被害者である子どもたちに対し、心から詫びたい。そして、二度と子どもたちが、原発の被害者になることがないように、私たちが生きているうちに原発のない安心できる社会をつくりあげていかなくてはいけない。もう誰にも、双葉地方の私たちの後悔や苦悩を、味わってほしくない、と結ばれた。
討 論 参加者からは、部落解放教育の中で長年「差別の現実から深く学ぶ」ことを座右の銘にしてきた自分であったが、あまりにも「福島県の現実」を知らない自分であることを痛感させられた、といった意見。また、福島県からの転校生が、転校を繰り返すことで、自らの出身を隠そうとしたりしている現実が出され、新たな人権問題が生起していることが示された。報告①の若い教師が自ら行動し、子どもたちと向き合い、子ども同士をつないでいく取組、報告②の教職員が自ら被災者になりながらも、子どものケアに奔走するひたむきな姿に、参加者自らが教育の使命を振り返り、日々自分が向き合っている子どもたちを取り巻く課題や実践を改めて捉え直したいと強く感じることのできる分科会であった。